グローバルSaaSは幻想か

データの国有化とアクセンチュア2年目のスーパーサイヤ人化
らんぶる 2024.02.15
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SalesforceのM&A分析ばかりでも単調化しそうなので、少し俯瞰して今後のSaaS業界のグローバル化について考えてみる。

SaaSに限ったことではないが、売上を増やすには顧客数を増やすか、単価を上げるしかない。SaaSを含むソフトウェアに限って言えば、提供価値を定数とした時の単価は上がらないようになっている。これはソフトウェアが常に改善されるという前提に依存し、その前提は概ね正しい。したがって単価をあげるためには、技術開発のコモディティ化よりも速く提供価値を向上させる必要があるが、生成AIの到来により技術開発のコモディティ化が加速することは一目瞭然である。もちろん技術的革新は続く。しかしSalesforce誕生から25年、SaaS製品顧客として我々が一貫して経験してきた「なんかよくわからない機能が増えて去年よりも利用額が増えた」トレンドの終焉は近いように思う。

一方、顧客数を増やすには大きくわけて二つの方法がある。同じ地域で別の顧客セグメントを狙うか、新しい地域に進出するかである。当ニュースレターは一貫して前者のアプローチを悲観視してきた。なぜならどの市場に於いても零細企業、中小企業、そして大企業が抱えるビジネス課題は大きく異なり、その解決手段としてのSaaSに要求される機能も役割も異なるからだ。SlackがけっきょくポンコツTeamsに勝てなかったことBILLが一貫して中小企業までを顧客ターゲットに絞っていることWorkdayが創業当初から大企業のみを狙っていたことなど、「SaaS企業による顧客セグメントの多角化は最後の手段であり、成功に導くことは極めて困難であること」は、様々なカテゴリで実証済みである。

では後者の「新しい地域への進出」はどうだろうか?

従来の他地域進出の方程式は以下のようなものだった。まずアメリカ市場で一定の成功をおさめる。その次に英語が通じるイギリスとオーストラリアを攻略し、その2ヵ国を足がかりにEMEAとAPAC進出を始める(オーストラリアは後回しになる場合もあり、その場合は日本が優先される)。気がつくとアメリカの半分くらいの売上は他地域から上がるようになっており、グローバルSaaSが晴れて誕生する。

アメリカが世界最大のソフトウェア市場であるという事実は今後も変わらない。しかし他地域のSaaS経済圏が相対的に成長し、グローバルSaaS企業における米国内の売上貢献度が下がるかというと、まだまだその気配はない。コロナ禍を挟んだ3年間で北米の売上貢献度がどれだけ変化したか、代表的なSaaS企業のデータを眺めたものが下図である。2022年末時点でも米国の売上貢献度は依然として高い。2022年は米国連銀が急ピッチで政策金利を引き上げた一年でもあり、ドル高の影響も否めないが、それを差し引いても売上のグローバル化の道のりは遅々としていると言うより他はない。

11社の内訳はCRM・NOW・ADBE・DDOG・VEEV・ZM・NET・CRWD・OKTA・TWLO・HUBS。赤から青へ右への移動は顕著。また会社によっては北米(米国+カナダ)という区分で報告しておらず、米国のみ、あるいはアメリカ大陸で報告している会社もあるため、厳密には北米の売上ではないことに注意したい。しかし実質北米もアメリカ大陸も、アメリカ合衆国の売上が大部分を占めている。

11社の内訳はCRM・NOW・ADBE・DDOG・VEEV・ZM・NET・CRWD・OKTA・TWLO・HUBS。赤から青へ右への移動は顕著。また会社によっては北米(米国+カナダ)という区分で報告しておらず、米国のみ、あるいはアメリカ大陸で報告している会社もあるため、厳密には北米の売上ではないことに注意したい。しかし実質北米もアメリカ大陸も、アメリカ合衆国の売上が大部分を占めている。

GDPという観点で言うならば、米国は世界の25%弱なので、SaaSの獲得可能市場の観点からは、二番手中国の18%を除いたとしても、全体の30%ほどでしかない。一方で上記11社が示すように大手上場SaaS企業における米国の売上貢献度は軒並み50%を超えており、Salesforceなど70%近い企業も少なくない。つまりグローバルSaaSと呼ばれる企業たちは現状北米特に米国に売上が集中しており、もしこれら既存SaaS企業がよりグローバル化するのであれば、米国以外の地域での売上が、大いに加速する必要がある。

しかし、SaaS黎明期とも言えるこの25年で起こらなかった現象が、今後25年で起き得るのだろうか。当ニュースレターは「データの国有化」と「アクセンチュア2年目のスーパーサイヤ人化」のふたつの観点から、否定的に予想する。

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続きは、5874文字あります。
  • データの国有化
  • アクセンチュア2年目のスーパーサイヤ人化
  • 非ローカルSaaSの勝ち筋はどこか

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