シリコンバレー的欺瞞のシンボルとしてのLimitless

ピボットしまくった結論はタイムリミット
らんぶる 2025.12.14
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Dan Siroker率いるLimitlessがMetaに買収された。スタンフォード卒の連続起業家によるAI前提のハードウェア+サブスクサービス垂直統合スタートアップとして注目されてきたが、本格的サービスインから一年と経たず打ち切りとなった。

99ドルのペンダントは自動で日々の会話を収音し、モバイルアプリを介してテキスト化、ナレッジ化できるようになっていた。フリーミアムで、課金プランは月29ドル(年間契約で19ドル)から

99ドルのペンダントは自動で日々の会話を収音し、モバイルアプリを介してテキスト化、ナレッジ化できるようになっていた。フリーミアムで、課金プランは月29ドル(年間契約で19ドル)から

買収金額は公表されていないが、おそらく公開しても誰も得をしない価格だったと考えるのが妥当である。前身のRewind.ai時代、ウィリアム・ヴィックリーも吃驚の「ツイッターで投資家から評価額を募る」という前代未聞のシリーズAラウンドを敢行、その結果$350MというPMF前の会社としては無謀すぎる高評価で$12Mの資金調達に成功している。今やAI界隈で常套手段となった「売上が立ち始めてから一ヶ月しか経ってないのに、初月の売上を12倍にして計算するARR」通称AIRRが$707kなので、どんなに低くPSRを見積もっても500倍だったということになる。発表当時「言うてエッチなサイトとかも見ちゃうかもしれないし、パソコン上のありとあらゆる資料やログを検索可能にするなんて聖人君主以外誰が使うの」と訝しげに思ったと記憶している。

ちなみに上の売上チャートには売上ゼロの暗黒期が3年近く描かれているが、この間何をしていたかというと、ScribeというRewind.aiの前身となるZoomに特化した文字起こしサービスを展開していた。コロナの真っ只中でZoomの売上も鰻登りだったのでおこぼれに預かれてもおかしくない気がするが、とりあえず売上は作れなかったようだ。それでも$75Mの評価額でa16zから$10M調達しているので、Sirokerは資金調達の天才である。若しくは実は売上があったのかもしれないが、みみっちい売上を正直に報告するよりもいっそゼロに切り捨ててしまったほうがゼロ・トゥ・ワン感を演出できるという算段なのかもしれない。

しかしパソコン上のありとあらゆるデータを記憶するRewind.aiの成長もさほど芳しくなかったようで、翌年2024年春には録音デバイス前提のハードウェア垂直統合型AIライフログツールに再度ピボットする。社名もRecall.aiからLimitlessにリブランド、最初の製品はその形状からLimitless Pendantと名付けられ、2024年第四四半期の量産を目指すと発表した。

Limitless発表当時のSiroker氏は鼻息荒く、後のM&A先となるFacebookもといMetaをディスりながらLimitlessのポジションを明確化している。ピボット時のプロモ動画より引用する(naniが一瞬で翻訳・強調は筆者)。

Facebookのような広告を主な収益源とする企業は、利便性はプライバシーを犠牲にして初めて得られるものだと世界に納得させようとしてきました。Facebookを利用する際、あなたは「商品」となります。しかし、Limitlessは違います。Limitlessでは、プライバシーを犠牲にすることなく、パーソナライズされたAIの恩恵をすべて享受できるのです。これは史上初の試みです。私たちのこのアプローチは、既存製品であるRewindから着想を得ています。SlackやZoom、Gmailとは異なり、Rewindはローカルで動作するため、あなたのデータは雇用主、ソフトウェアプロバイダー、そして政府から安全に保護されます。しかし、このアプローチには欠点もあります。例えば、利便性に欠け、どのデバイスからでもデータにアクセスできず、ストレージも限られており、最高のAIモデルを提供することが困難でした。本日、そんな課題を解決する「コンフィデンシャル・クラウド」を発表します。Limitlessは、Rewindと同じプライバシー保護を維持しつつ、クラウドの利便性を提供します。あなたのデータの復号化を制御できるのは、あなただけです。

そしてこのローンチ動画から2年と経たないうちにMetaにリブランドしたFacebookに買収されるのだが、買収に関する発表内容とローンチ動画の内容は色々と辻褄が合わない(naniで翻訳・強調は筆者)。

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  • 中国特色的ペンダントとコッカラッス

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