シリコンバレーの(元)秘密結社Palantir(後編)

Save The Shireするのは誰?ユニークな採用戦略の始まりと終わり
らんぶる 2022.01.17
読者限定

前編が思ったより好評だったのでホッとしている。今回は予告通りPalantirの採用戦略についてコメントしていく。が、その前に一つだけ辻褄が合わない数字をみつけたので共有しておく。

らんぶる
@tamuramble
Palantirの数字がなんかおかしい。FY21Q3で年間顧客単価が全体で$7M、四半期中に獲得した34社を除くと$8.8Mと発表しているんだけど、そうすると新規からの売上は既存の169社*$8.8M/社=1,487Mを、全体の203社*$7M/社=1,421Mから引いたものとなり、つまり新規34社の平均顧客単価はマイナス…?
2022/01/11 20:46
0Retweet 9Likes

おそらく僕の読み違いだと思うが、もしこれが本当なら民間事業の立ち上がりは未だ相当厳しいと言わざるを得ない。読者でこの数字の正しい解釈をご存知の方がいれば、ぜひ教えてほしい。

さて、採用である。

Palantirのような「水平型」のプラットフォーム企業にとって、最も重要な役割は、顧客の課題とプラットフォーム機能を紐づけ、運用可能な技術ソリューションに落としこむ仕事だ。業界用語で言うところのセールスエンジニア(通称SE)なのだが、その重要性はプラットフォームの汎用性と正比例する。使い方が決まっているソフトウェア、たとえばメール配信ツールなら、その使い方や技術的制約について説明するだけでよい。複雑になるといっても、メールを送るという基本的な処理手続きは一定だ。その一方、PalantirのFoundryやGothamのように、取り込むデータや目的によって使い方そのものが決まるソフトウェアの場合、処理そのものをデザインする必要が出てくる。Sequoia CapitalのDoug Leoneはこのふたつのパラダイムをウィジェット対ソリューションと称したが、システムハウスを売るのが前者で、スマートシティを設計するのが後者と言える。

スマートシティをつくろうと思ったら、個々の建物はもちろんのこと、全体の環境づくりについても明るくなる必要があるように、水平型プラットフォーム企業のSEは、自社プラットフォームのことはもちろんのこと、近接する他社製品やプラットフォームについても詳しくないと仕事が進まない。アマゾンのAWSやマイクロソフトのWindowsのように成熟したプラットフォームならいざ知らず、初期の水平型プラットフォーム企業の場合は、社外の人が進んで自社プラットフォームを学習してくれることもないので、SEに求められる学習量は膨大となる。「いや、うちは今のやり方でいいんですよ」と言っている会社に、「いや、御社の現設計を120%理解した上で申し上げますが、○○の理由で○○の部分にうちのプラットフォームを組み込むと、○○が低減され○○ができるようになり○○という費用対効果が見込めます」と説明できる必要があるのだ。

当たり前だが、それだけ技術に関して幅広く知見があり、顧客や営業と円滑にコミュニケーションが取れて、また必要とあればプラットフォームの未熟な部分を自分の技術力で補完できるSEは、僅少であり希少だ。多くの水平型プラットフォーム企業にとって、質の高いSEを採用することは成長戦略の要であり、非常に難しい。非常に難しいので、大体のSaaSはいきなり水平型プラットフォームを目指すのではなく、まずは限定的サービス(Leone氏の言葉でいうウィジェット)を作り、そこに機能を作り足していく過程でプラットフォーム化する戦略をとる。Salesforceなどがその最たる成功例だろう。

FDSE - それはPalantirが考える最強の人材

もちろんPalantirはそんな周りくどいことはせずに、とてもユニークな方法でSEを調達してきた。その方法というのは「SEという概念をうまくリブランドし、従来とはまったく違うところからSEを採用する」というものだ。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、5636文字あります。
  • 変わりつつあるPalantirの採用戦略
  • まとめに代えて:誰がSave The Shireするのか?

すでに登録された方はこちら