AI時代のMHCスタック①ManusとMeta

Manus買収巻き戻しとMetaのリストラを読み解く
らんぶる 2026.06.20
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早くも1ヶ月以上経ってしまったが、先月末、中国国家発展改革委員会(NDRC)が米国メタ社によるマナスの買収を中止するように求める声明を発表した。中国国内の投資家たちが命令に応じる一方で、昨年春の総額5億ドルの資金調達をリードベンチマークキャピタルはすでにLP投資家に利益配分を行ってしまっているとも噂される中、マナスの創業者たちは約10億ドルの資金を借り入れて株式をメタから買い戻すよう画策しているようだ。香港での上場が規定路線として有力視されており、先週末ようやくオペレーションとデータの巻き戻しがMeta社内でもはじまっていると報道された

Metaといえば、先月大規模なリストラを実施し話題となった。リストラに先駆けて行われたタウンホールミーティングでは、創業CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が社員に貸与したPCからAI訓練用のデータを収集し始めることを発表した。目的はもちろんAIモデルの訓練であるが、ザッカーバーグ氏は「市井の人間よりも賢い社員のPC利用データで次世代モデルを訓練することは性能的パフォーマンスにつながるはずだ」と語っており、部下ですらAI戦争の駒としか考えないサイコパスぶりは鬼舞辻無惨さながらである。

このMetaとManusにまつわる一連のできごとを、Model・Harness・ComputeというAI時代のMHCスタックの観点から分析してみたい。

今や大規模言語モデル単体の話をするとオワコン扱いされるようになってしまったが、一年前と比較してもSOTAモデルはより強力になっており、今や数学の未解決問題もどんどん解いてしまう時代となった。そうなるとモデル単体の賢さに関して言えば、すでにAGIが到来している若しくは少なくとも漸近していると考えるべきである。一方でAIも物理の法則から逃れることはできないので、賢さとスピードは反比例の関係にある。おそらく殆どの既存ホワイトカラー業務においてこれ以上に推論力・思考力が必要となることはないだろう。そうなると今の賢さを保ったままより高速に処理をしていくことが求められる。

我ら弱小ホワイトカラーにとって仕事の「速さ」とはなんだろうか。一つは情報の処理スピードそのものであり、もう一つは正しい情報を取ってくるスピードである。投資銀行やコンサルティングファーム出身者が頼んでもいないのに教えてくれる武勇伝も、往々にしてこの二つに集約される。つまり日夜様々な人と会うことで誰がどのような情報を持っているか収集したうえで、集めた情報をよなよな処理して成果物として仕上げるのが新卒から数年の仕事の大半を占める。

AI到来以前からこの二つの作業は年々効率化されてきていた。PCやそこに搭載された情報処理ソフトウェアの性能はこの30年で劇的に改善されたし、インターネットの普及およびオンライン会議システムや各種ナレッジ管理ツールの発展により、公開情報はもちろん社内情報の整理も圧倒的に楽になってきている。ただ人間はめんどくさがって使い方を覚えなかったり間違えたり、社内政治の観点から意図的にライバルのDX推進プロジェクトの足を引っ張ったりするので、ITによる業務効率化の流れには個人間・企業間で大きな隔たりがあった。

そしてそこに満を持して登場したのがA(G)Iである。今のAIは殆どの人間よりも情報技術を使うのが得意である。なぜなら人間と違ってAIはマニュアルを読むし、確認しろと伝えれば自分の作業を必ず確認するし、社内政治をするなと言ったらしないからだ。ただこの手の背景情報なり仕事のやり方、情報の集め方に関しては適宜指示する必要がある。これがハーネスの本質である。

仕事が違えばやり方が違うように、ハーネスも複数必要となる。よく技術者の面々がClaude Codeの方がEQは高いがたまにハッタリをかましてくる、Codexの方が遂行力が高いがアスペ傾向があるみたいな話を書いているが、ここでも比較対象はOpusとGPTというモデルではなく、それらを包摂するエージェント的何かであるClaude CodeとCodexであることに注意したい。

ハーネス込みでの比較のおもしろいところは、パラメータ数と火力勝負だったモデル単体の競争とは異なる計算処理の総合格闘技であるところ、そしてハーネスそのものが入れ子構造になっているところだ。前者について例を挙げてみると、たとえば先出のMetaにおけるAI利活用の場合、広告主がいかに同社広告プラットフォーム上で高い費用対効果を実現するかがカギとなる(少なくとも短期的観点では)。そうなると当然のごとく同社が長年蓄積してきた広告ログデータを素早くかつ効率的にAIが参照できることが重要となるが、これこそMeta社内特有の文脈なので、Claude Codeに丸投げしたところで正しい文脈を得るまでには相当量のトークンと時間が必要となる。ではどう改善するかというと、データがどこにあり、どのようにアクセスできて、現在どのようなロジックで配信しているかをAIに教えるのだ。その際にはツールというかたちで社内データへのアクセスも提供することになるだろう。いずれにせよ、ここで求められるのは天才的な思考力ではなく、Meta社がこれまで人間社員に提供してきたトレーニングをいかに少ないトークン量でAIに伝えるかという「引き継ぎ力」である。

ちなみにMetaの場合、ひょっとしたら天才的AIの思いつきによりアルゴリズムが劇的に改善されることもあるかもしれない。しかし我ら一般的ホワイトカラーの仕事においてそんなことはあり得ない。なぜならCPM・CPAという定量的結果によって判断される仕事ではなく、GPTとCodexの差もわからない上司に評価が委ねられる環境において、AIが参考にできる固定の評価軸など存在しないからだ。

そのような無自覚な恣意性に支配された環境においては、前人未到の天才的示唆よりも、無難な品質を短い時間で空気を読みながら仕上げることの方が評価される。ではAIにより速く作業させるにはどうしたらよいのかというと、大きくわけて二つある。一つは前述のようにハーネスを主要業務の領域にカスタマイズさせることでAIに思考のショートカットを提供し、省エネできるようにすること。もう一つは単純に火力を追加することだ。ここでいう火力にはGPUは当然のことながら、CPUそしてメモリやネットワーク帯域も含まれ、それらを総合して(多少の語弊はあるが)計算量、すなわちComputeと呼ぶことにする。

2026年6月現在、Model・Harness・Computeのうち市場の関心は確実にComputeに移りつつある。キオクシアやMicronの株価がわけわからないことになっているのも、元々ロケット屋だったSpaceXの上場ストーリーがなぜかGrokのために作り過ぎたデータセンターの貸し出しビジネスありきになっているのも、どれもComputeが足りない、否、Computeが足りないと市場が睨んでいるからだ。Computeが足りないかどうかは誰にも知る由がないが、少なくともComputeを持っていることはポジティブなオプショナリティとして評価されるようになっている。

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