不況の足音と枢要性、時々AI
ServiceNowがFY23Q3の決算を発表した。サブスクの売上は前四半期の予想を上回る$2,216M(≒3,300億円)、FY23の売上予想も上方修正するいわゆるBeat&Raiseで下降トレンドに歯止めをかけたが、やはりマクロの重圧は重く、過去5ヶ月株価は停滞している。
過去12ヶ月NASDAQに対しては大幅にアウトパフォーム
RPOを始めとする各種KPIをみても、業績の足腰は強くみえる。昨年ConfluentやCloudflareの文脈で「業務枢要性」について考察したが、ServiceNowも非常に業務枢要性の高いサービスを提供しており、景気が後退したところで、ServiceNowをすぐ解約する会社は僅少だろう。
しかしこのニュースレターの性質上、不安要素はありません、Beat&Raiseでめでたしめでたしで終わるなら、そもそも取り上げない。ということで粗探しの結果報告に移るが、もちろん私が出る幕もなく、ちゃんと質疑応答でRaimo Lenschowがいやらしく質問している(ChatGPTで翻訳後微修正・強調は筆者)。
(Raimo Lenschow - Barclays) ありがとうございます。製品に関して言えば、ITSMとITOMは今四半期非常に強力だったようですね。それについて少し詳しく話していただけますか?おそらく大規模な連邦政府向けの取引が影響していると思われますが、異なる製品カテゴリーでの状況についても広く教えていただければと思います。改めておめでとうございます。(CJ Desai - Service Now President and Chief Operating Officer) こんにちは、質問していただきありがとうございます。私はCJです。素晴らしい質問です。お話しできてうれしいです。ITSMとITOMは、ソリューションの観点からサービス運用として定義しており、これは私たちのコアです。Bill(筆者注:CEOのBill McDermott)が説明したように、新しいロゴビジネスと、重要な新規顧客獲得ビジネスが非常に強力で、ほとんどの場合、ITSMとITOMを中心に計画しています。一般的に、ITSMはPro SKUsを介して拡張率を持続的に維持しており、最近はPro Plusも追加され、顧客みずからITOMとAIOpsを駆使し、デジタル資産の可視化から状態管理まで、最新のイノベーションが既存の製品ロードマップの範疇を超えて起きています。
Lenschowの質問を意訳すると「いやBeat&Raiseでドヤっているけれど、大型政府系案件が受注できたからですよね、それよりここ数四半期目標としてきたWorkflowの多様化を基軸としたビジネスの多角化の進捗はどうなん」であるが、Desai氏の慇懃なほどに丁寧なあいさつと、後半に向けて曖昧模糊になる氏の説明が、語らずして語るメタ回答である。
メタじゃない定量的な回答もIR資料から引用しておこう。
https://www.servicenow.com/content/dam/servicenow/other-documents/investor-relations/investor-presentations/servicenow-q3-2023-investor-presentation.pdf
Technology Workflowsに含まれるのはDesai氏も言及するITSMやITOMといった情報システム部管轄のワークフロー群であるが、その売上貢献率は、過去5四半期減るどころか微増している。この要因はふたつ考えられる。まずはServiceNowの製品群の中でも、Technology Workflowsは最も枯れた技術であり、拡販するにしても新規を取るにしても、実績もノウハウも潤沢にあること。もう一つの理由は、来期以降の景気の冷え込みが確実視される中、人事部門に紐づくCustomer&Employee Workflowsおよびマーケティング・企画部門に紐づくCreate Workflowsは、予算蒸発の蓋然性が高いことだ。売上の分散に終始するあまり売上が霧散してしまったら本末転倒であり、現場としては、とにかく受注確度の高さが最優先だろう。
不況下における各予算の信頼性については、Boxの創業社長にして百戦錬磨のSaaS手品師Aaron Levie氏がこうつぶやいている(ChatGPTで翻訳後微修正)。
AI スタートアップが注意すべき分野の一つは、一時的なイノベーション予算に過度に依存しないことです。ソフトウェアは結局のところ、収益を増やし、コストを削減し、リスクを減少させるか、企業の運営を改善する必要があります。自分たちがどれに当てはまるかわからない場合は、今すぐ判明させるべきです。
さすがは2008年のリーマンショックも2016年のLinkedIn SaaSショックも乗り越えた猛者といったところだが、まさしくこの指摘のとおりで、景気に左右される予算はつくのも早いが消えるのも早い。人事予算は採用活動に比例し、採用活動は景気と当然のごとく連動する。マーケティング予算に至っては、景気のバロメータといっても過言ではない。この2つの分野をこのマクロ経済下で伸ばすのは、ServiceNowとて難しいだろう。
その一方でNvidiaとの全面的協業の最初の成果として、ITOMおよびITSM製品ラインにAIOps機能を追加するGTMセンスは流石である。それこそLevie氏の箴言ではないが、AI機能をそのままイノベーション予算に売りつけ、一年後ハイプサイクルの幻滅期と共に解約されるより、情シスの盤石な予算に紛れ込ませてアップセルを狙う方が、安定したキャッシュフローの創出につながる。
2023年も残すところあと2ヶ月、今年最後の決算ラッシュで各社どのような業績を見せてくるか楽しみである。
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