Figmaとは何だったのか(あえて過去形)

未来をたぐり寄せた技術的革新と戦略的先見性
らんぶる 2022.09.25
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コッカラSaaSは公開情報の定点観察をヒントにSaaS経営陣の発言の粗探しをすることを得意とする媒体だ。よって情報が断片的かつ二次的になりがちな未上場企業は、基本的に分析対象から外している。しかし先週のAdobeによるFigmaの買収はタイミングと規模の両方に於いて特筆すべき特異点であり、今回は例外的に取り扱うことにした。

M&AとFigmaに関する基本情報

もう既に各媒体で話題になっているが、買収に関する基本情報はAdobeのプレスリリースとSECに提出されたDefinitive Merger Agreementに記載されている。

M&Aのハイライトは以下の通りである。

  • 買収額は$20B(≒2.8兆円)で、支払いは約半分が現金、残り半分がAdobeの株式との交換

  • 買収額とは別に約600万Adobe株分が、Figma社員のretentionのために用意される。Merger Agreementを読む限り、これはUnvested RSUとSOを補填するためにも使われる模様

  • FTC(連邦取引委員会)の承認を待つことになるが、予定では2023年前半に取引が完了。最長2023年12月15日までに取引が完了しない場合、$1B(≒1,400億円)がAdobeからFigmaに取引中止料として支払われる

  • Figmaは2021年のARRが$200Mで、2022年の着地は$400Mと予想される。つまり買収額はTTMベースで売上マルチプル65-75倍、NTMベースでも40-50倍と、非常に高い評価額がついた計算となる

  • Figmaの創業者でCEOのDylan Field氏は引き続き独立部門のトップとして続投、Adobe社のDigital Media部門のトップを務めるDavid Wadhwani氏の部下となる

おそらく未上場SaaS企業の買収額では、今回のM&Aは最高額なのではないだろうか。売上マルチプル12-15が上出来とされるこの買い手相場でこれだけ高いマルチプルをつけたことも、多くの投資家たちを驚かせた。

ビリオネア問題児四人組ポッドキャスト“All-In”でも指摘されていたが、純粋な財務モデル的観点では、明らかに払いすぎと見て間違いない。その一方でAdobe Creative Cloudを順調に伸ばしつつも、部門間のコラボという大きな波に乗り遅れたAdobeにとって、Figmaの快進撃は戦略的にも各種経営指標的にも脅威である。潤沢にあるキャッシュを物を言わせて不況の先にあるコラボ型クリエイティブエコノミーに照準を合わせたという説明は、イナゴはともかく長期投資家には受け入れられるだろう。

ちなみにFigmaの社長をつとめるDylan Field氏はPayPal共同創業者でFacebookの初期投資家であるPeter Thiel氏が設立したThiel Fellowであり、10万ドルの支度金と引き換えにブラウン大学を退学してFigmaを始めている。いろいろと揶揄されたThiel Fellowshipだが、Ethereum考案者のVitalik Buterin氏に続く大きな成果を出すこととなった。

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