Okta:クラウド経済の認証システム②

Auth0を推すも苦戦するPMIと泣きっ面に蜂のセキュリティ障害
らんぶる 2022.12.31
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前回に続きOktaについて分析していく。今回主役となるのは、Oktaが2021年5月に買収したAuth0だ。2010年代SaaSのカンブリア期を迎え、セキュリティと管理が経営課題となったところに目をつけたのがOktaだとするならば、そうやって量産されるSaaSや、デジタル化の波の中で跋扈するオンラインサービスの開発者の視点から認証・認可を簡略化しようとしたのがAuth0だ。具体的にはどのようなユースケースから出発したのだろうか?ここに関してはAuth0のシリーズAをリードしたBessemer Venture Partnersの投資メモによくまとまっているので一部引用する(DeepLで翻訳後微修正・強調は筆者)。

Auth0を使用する開発者は2種類に分かれます。まず、Adaptive Insightのような SaaSベンダーは、Auth0 を使って、エンドユーザが社内の認証情報、ソーシャルログイン、あるいは固有のユーザ名とパスワードでログインできるようにすることができます。これにより、ユーザー名とパスワードを覚える必要がなくなり、ユーザーエクスペリエンスを合理化することができるうえ、市場投入までの時間も短縮できます。さらに、Auth0で利用できる30以上のソーシャルログインは、1クリックで利用でき、リッチなユーザプロファイルを可能にします。Auth0がターゲットとするもう一つの開発者のカテゴリーは、企業の社内アプリを構築し、複雑なアイデンティティ環境において素早く認証を可能にしたいエンタープライズアプリの開発者です。これは、アプリがパートナー、ベンダー、コンサルタントのユーザ名やパスワードを管理することなく認証できることも意味します。このように、Auth0はIDフェデレーションを迅速に設定するための自動化ツールを提供します。
https://www.bvp.com/memos/auth0

シリーズAの時点で既にAuth0がSaaS利用者と社内アプリ利用者の双方のユースケースを抑えていたというのは興味深い。実際Bessemerのメモにも、後者に関してはOktaを最大の競合として挙げており、Auth0とOktaの邂逅は運命づけられていたと言える。Oktaが後者の市場を抑えにいく中、Auth0は着実に前者の市場で市場シェアを伸ばしていった。未上場企業なのでデータの信頼性は低いが、2014年のシリーズA時点では75社だった有償顧客数も、2018年のシリーズC時点では3,500にまで増え、その一年後の2019年のシリーズDでは7,000に倍増、Oktaに買収された2021年春時点では9,000社以上にまで伸びている。

OktaにとってAuth0はそれ相応の脅威だったに違いない。OktaはAuth0買収後も売上を別々に報告しているので(下図参照)、買収時点での売上マルチプルが計算できる。FY22Q2からFY21Q1までのAuth0の売上は38+46+56+66=$206Mであり、買収額が$6.5Bなので、売上マルチプルは実に31.6倍となる。しかもこれはNTMの数字である。OktaはFY22Q4の業績報告でAuth0の年次売上成長率を81%と報告しているので、単純計算でTTMベースならマルチプルは50を超える。いくらSaaSバブル真っ只中にあったとはいえ、決して安い買い物ではなかったろうし、BVP含むAuth0の投資家にとっては最高レベルのエグジットであったに違いない。

https://investor.okta.com/static-files/47dc142f-51b0-42f5-a8bc-b71b82c95244 p27

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