Veeva:業界特化型SaaSのお手本①

8億円の資金調達から生まれた時価4兆円メタSaaS
らんぶる 2022.01.24
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先週のSaaS株はまあよく下がったが、今週も元気にコッカラSaaSで行きたいと思う。しかしこれだけ下がったとは言え、他のあらゆるセクターよりもここ3年はリターンが出ているようだ(注:筆者は2018年10月ごろからSaaS株を買い始め、本文を書いている2022年1月24日時点では$ZM・$NET・$DOCNを所有している)。改めてコロナ禍はSaaSにとって追い風であったとみて間違いないだろう。

https://cloudindex.bvp.com

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さて、今日の本題は上記のEmerging Cloud Indexにも含まれるVeeva Systemsだ。ヘルスケア・製薬業界に特化したクラウドソリューションを提供する会社で、2007年に創業、2013年に上場、利上げ市場の中でも時価総額4兆円と順調に成長してきた知る人ぞ知る企業だ。Veevaは色々とユニークなのだが、その中でも特筆すべき点が3つある。

  • 機関投資家からの調達額の少なさ:驚くなかれ、Veevaは一度しか調達しておらず、その額もたったの$7M(約7億8000万円)。それもなんと使いきれず、$3M使ったところでキャッシュフロー黒字化を達成してしまった稀有な会社だ。創業して間もなくリーマンショックが来てしまったことも無関係ではないだろうが、それにしても圧倒的な資本効率である。2022年は利上げとインフレからの株安でベンチャー投資も冷え込むと見られている中、Veevaの成長の軌跡は起業家たちの参考になるのではないか。

  • SaaSの上で作られたメタSaaS:VeevaはSalesforceというSaaSの上で始まっている。創業者のGassner氏がSalesforceでテクノロジー担当SVPだった時に「ひょっとしたら製薬向けにゴリゴリにSalesforceをカスタマイズしたら刺さるんじゃね」と気づいたところが出発点なので、当然と言えば当然なのだが、今でもVeeva CRMのバックエンドはSalesforce社のSales Cloudである。しれっと「メタSaaS」という表現を使ってみたが、SaaSの上にSaaSを作る、というのはごく自然な発想のはずなのに、なかなかやっている会社は少ない(このことについてはいつか別の文脈で触れてみたい)。

  • 業界特化型でARR$1B(≒1,100億円)達成:コッカラSaaS的にはこれが一番特筆すべき点だろう。今でこそ当初のライフサイエンスの外にも食指を伸ばし始めているが、ずいぶん長いこと一つの業界でポートフォリオを拡充することで売上を積み上げてきた。明言せずとも得意・不得意な業界があるのはどのSaaS企業も一緒だが、Veevaのように初日から業界を絞る会社は珍しい(前回・前々回と調べたPalantirですら、金融と政府の二本立てだった)。

見れば見るほどレアモノ感が漂うVeevaだが、そのGTMをここから紐解いていこうと思う。

分析手法なのだが、IR資料は次回に後回しにして、プレスリリースから読み解いていきたいと思う。あくまで門外漢の仮説であるが、Veevaの成功は、特段すごい製品的ブレークスルーがあったというよりも、ヘルスケア並びにライフサイエンスという難しい規制産業にSaaSを持ち込んだ製品マーケティングの力に依るところが大きいと見ているからだ。AWSなどもそうだが、製品マーケティングが上手な会社のプレスリリースは学びの宝庫である。実際ウェブサイトに載っている400本近いプレスリリースを分析すると、その巧みなポジショニングとメッセージングの歴史が見えてくる。

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